貧困・所得保障

安倍首相「子どもの貧困を改善した」は本当?→結婚・子育てが階層ステイタス化、子育て世帯の実質可処分所得は大幅減で貧困深刻化

アベノミクスで貧困が改善した?

安倍晋三首相が衆院選の中で、「安倍政権は貧困率を改善した。とりわけ子どもの貧困率の改善が大きい」と言っています。本当に安倍政権のもとで貧困は改善しているのでしょうか?

政府が今年の6月27日、「相対的貧困率」を発表しました。全人口の相対的貧困率は、2012年の16.1%から2015年の15.6%。子どもの貧困率は16.3%から13.9%へ減少したとしています。

しかし、よく見ていくと、可処分所得の分布の実質値で見た場合、全体の状況が悪化していて、貧困の改善どころの話ではないことがわかります。

可処分所得の全体が下がり「貧困線」が下がった

可処分所得の全体が下がって、実質値(1985年の物価水準を基準とする)の「貧困線」が2012年の111万円から2015年の106万円に下がっているのです。(※「貧困線」は、1997年の130万円からずっと下がり続けています)

そこで、2012年の実質「貧困線」である111万円のままで2015年の数字を概算すると、全人口の貧困率は17.0%となり、むしろ上がっていることになります。子どもの貧困率は15.0%で少し改善していますが、子どもの貧困率が改善したのは、低所得の世帯の有業人口が増えたからです。そして、子育て低所得層の有業人員数増加の主な要因は、乳幼児を抱えた母親の有業率上昇です。その有業率は、2012年から2015年にかけて年収500万円未満の世帯で急増していて、必要に迫られた母親の就業を阻害する保育所不足が、世の憤激を呼んだのはこうした状況が背景にあるのです。

「相対的貧困率」は「相対的低所得人口率」に過ぎない

そもそも「相対的貧困率」は、貧困の量を測るものではありません。「相対的貧困率」に用いられる「貧困線」は、国民全体の可処分所得分布から自動的に決まり、毎回変動しますが、それは、「この額以下では暮らせない」という意味の貧困基準として設定されているわけではないのです。

たとえば、2015年の4人世帯であれば、「貧困線」は244万円となりますが、生活保護制度による最低生活費の全国平均は327万円です。「相対的貧困率」は、「相対的低所得人口率」の測定ではあっても、本当に生活ができるかどうかの実質的な貧困率とは言えません。

物価上昇分を考慮すると2012年と比べて2015年の所得分布が改善したわけではない

そこで、生活保護制度が生活保護基準を用いて世帯毎に算定した「最低生活費」の平均値未満を実質的な貧困として、グラフにしたものが以下です。

 

上のグラフにあるように、2012年の最低生活費を固定し、物価上昇分を考慮すると、それに達しない2015年の人口割合は24.3%、人口は3,079万人(2016年人口で計算)となり、2012年と比べて所得分布が改善したわけではないことがわかります。

<結婚・子育て>のある種の階層ステイタス化=「中間階層化」

日本社会におけるこの20年間の貧困・困窮の広がりと深まりを象徴するのが、結婚・子育てのある種の階層ステイタス化です。

上のグラフに明らかなように、2015年現在、40歳代男性のうち、<夫婦で子育て>をしているのは約半数にすぎません。この割合は、5年ごとの国勢調査のたびに約5ポイントずつ減少し、この20年で20ポイント減少しました。

上のグラフは、就業構造基本調査によって、40歳代の男性で、<夫婦と子>世帯の夫と、単身者および親元などにいる無配偶者などを含む人びとの勤労所得分布を、累積比率表示で比較したものです。2012年の数字では、300万円未満の割合が、<夫婦と子>の夫では12.5%ですが、単身者・親元などの無配偶者などのグループでは43.5%と大きく違います。なお、2012年は2002年よりも両者の差が開いていることもわかります。結婚・子育てをめぐる位置の違いは勤労所得の多寡と密接に関連していて、かつ、この20年で低所得男性が大幅に増えていますから、<夫婦で子育て>そのものが、ある種の階層ステイタス化=「中間階層化」したのは不思議なことではありません。

他方、この「中間階層化」は世帯可処分所得が大幅に減少した状況の下で生じているので、<夫婦で子育て>世帯における貧困拡大も同時に進行しています。「中間階層化」して、なお、条件が悪化しているのです。

子育て世帯の平均可処分所得は97万円も減少(1997年→2015年)

上のグラフは「国民生活基礎調査」の所得票調査から、子育て世帯の実質の(2010年=100)平均可処分所得を見たものです。1997年の624万円から2015年の527万円へ、子育て世帯の平均可処分所得は97万円も減少しているのです。(※世帯人数で調整した実質等価可処分所得でも同様で減少額は34万円です)

子育て世帯のうち、税込み収入400万円未満(実質値2010年基準)の割合を示したのが上のグラフです。世帯主年齢40歳代の変化が大きくなっています。2015年では30歳代の値と40歳代の値が接近していて、年功型賃金崩壊の影響と見ることができます。

そして、この400万円という数字は、上の表にあるように、児童手当を受け取り、公租公課、勤労必要費用、学校教育費、補助学習費を支出したのちの残額が、容易に、生活保護基準による生活扶助と住宅扶助の合計を割り込む金額であるということです。

以上のように、「相対的貧困率」の数字だけで、貧困減少を語る安倍首相は間違っているのです。

後藤道夫(福祉国家構想研究会共同代表、都留文科大学名誉教授)
井上伸(福祉国家構想研究会事務局、国公労連中央執行委員)

▼関連文献

シリーズ福祉国家構想3

後藤道夫 編
布川日佐史 編
福祉国家構想研究会 編
『失業・半失業者が暮らせる制度の構築
 ――雇用崩壊からの脱却』(大月書店)

 

 

 

 

 

 

シリーズ福祉国家構想5

世取山洋介 編
福祉国家構想研究会 編
『公教育の無償性を実現する
 ――教育財政法の再構築』(大月書店)

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