雇用・労働

〈 #アベノミクス 雇用改善の不都合な真実〉若者就職内定率と有効求人倍率が最高の原因=若年人口減+労働者使い捨て+高齢化で介護福祉労働増+名ばかり正社員増+生活苦で勤労学生増+低年金で高齢ワーキングプア増

1 アベノミクスの6年間は低成長経済だった

自民党の参院選向けのHP(「データで見る!アベノミクス6年の実績」)にはアベノミクスの経済政策の実績をいくつかあげているが、この間の経済成長率については触れていない。胸を張って自慢できる水準ではないようだ。内閣府のデータによれば、2012年度から18年度までの6年間で名目GDPの伸び率は年平均1.8%、実質ではわずか1.1%にすぎない。つまりアベノミクスの6年間は低成長時代にほかならない。

それにもかかわらず、有効求人倍率が上昇し、「人手不足」が生じているのはなぜだろうか? 結論を先取りすれば、このような現象は「雇用と働き方・働かせ方の劣化」を示すシグナルであるということだ。

2 低成長にもかかわらず「人手不足」が生じているナゾ

これまでの日本経済をふり返ると「人手不足」が叫ばれた時期は2回ある。ひとつは1960年代後半から70年代初めにかけての高度成長期である。いま一つは80年代末から90年代初めのバブル期である。前者の経済成長率(実質GDPの伸び率)は年率10%を超えた。バブル期の場合、87年から90年にかけて実質GDPの伸びは年率4%から6%であった。

これに対してアベノミクスの場合はどうか。上記のとおり、安倍政権の誕生以来、実質GDPの伸び率は年率1%程度にとどまっている。明らかに低成長である。これまでの好況局面では(バブル期はやや異なるが)、企業の設備投資が活発化するにともなって雇用も拡大、賃金も上昇する。これにより消費財部門の投資も活性化、さらに雇用が拡大するサイクルを描いてきた。投資意欲の拡大にともなって人手不足が顕在化した。

だが今回の「人手不足」はまったく別の要因で生じている。そこには雇用と働き方・働かせ方の問題、端的に言えば「雇用の劣化と働き方の貧困」がひそんでいる。

今日の「人手不足」は主に2つの要因から生じている。第1は若年人口の減少である。第2の要因は、今日の雇用と労働が持続可能な働き方とは真逆の労働力使い捨て的性格を強めていることである。順に見ていこう。

(1)「人手不足」の原因その1 若年人口の減少で新規学卒者が「売り手市場」に

まず少子化による若年人口の減少である。15~24歳人口は2002年から18年までの16年間に1521万人から1218万人へ、実に300万人余り減少した(図表1)。今日、新規学卒者の労働市場を売り手市場にしている主たる要因は若年人口の減少にある。大学進学率は上昇したものの、人口減によって、15~24歳層の大学・大学院在学者および同卒業者の人数は02年から18年にかけて3万人減少している(376万人→373万人)。若者の多くは大手企業への就職を希望するため、新卒者を採用できない中小企業からは経営へのマイナスを訴える声が相次いでいる。若者の多くは就職状況の好調さをアベノミクスの成果と受け取っているようだが、その主因はもっぱら若年人口の減少にある。

もちろん、高卒・大卒労働市場の好転自体は歓迎すべきことではあるが、この中には「名ばかり正社員」が含まれている。後述のとおり、20代の正社員の1割は「名ばかり」である(図表4参照)。学生が警戒を強めているブラック企業の問題とも関連している。

学卒市場の好調さが喧伝される一方で、大卒労働市場に参入できない若者が少なからず存在していることにも留意する必要がある。18~21歳層で主に仕事に従事している若者は117万人になるが(「労働力調査(基本集計)」2018年平均)、この中には家庭の経済的事情で大学・短大や専門学校への進学を断念した者も含まれる。

若年人口減少をもたらした少子化の背景には、非正規雇用の拡大も関わっている。周知のとおり、正規雇用に比べ非正規労働者の未婚率は高く、少子化を加速している。とりわけ、90年代後半から2000年代前半にかけて「就職氷河期世代」をつくり出したことが今日の日本の経済と社会にダメージを与え続けている。第3次ベビーブームが訪れなかったことと「就職氷河期」とは無関係ではない。

非正規雇用を拡大する資本の雇用管理や、規制緩和によってこれを支援した自公政権の雇用政策の責任は大きい。子育てを社会全体で支えるための体制(保育、医療、教育、住宅など)が整備されているならば、たとえ非正規雇用であっても結婚や出産は可能である。子育てを自己責任に委ねる新自由主義政策の転換が求められる。このように若年人口や新規学卒者の減少はけっして自然現象ではなく、過去数十年間の政治と経済の基本的あり方が問われている。

(2)「人手不足」の原因その2 労働力使い捨て社会

低成長経済にもかかわらず「人手不足」が生じている第2の要因は、今日の雇用と労働が持続可能な働き方とは真逆の労働力使い捨て的性格(雇用の劣化と働き方の貧困)を強めていることである。

図表2は有効求人数が10万人を超える主な職業について、有効求人倍率の高い順に並べたものであるが、接客・給仕、飲食物調理、商品販売の職業は消費サービス産業を代表する職業である。また、自動車運転も物流部門を担う中心的職業であり、消費サービス産業と深く関わっている。これらの部門に共通するのは働く人々の労働移動がきわめて激しいことである。賃金水準が特に低く、深夜労働が一般的で、交替制も珍しくないことなどの悪条件が重なれば、そこで腰を据えて技能をみがき、自立した生活を展望する意欲を維持することは容易ではない。

厚生労働省「雇用動向調査」(2017年)によれば、宿泊業・飲食サービス業は入職率(33.5%)、離職率(30.0%)ともに高く、生活関連サービス業・娯楽業(それぞれ21.4%、22.1%)がこれに続いている。このため、雇い主は求職者が見つかってもいつ辞めるかわからないため、求人を出し続ける傾向が見られる。有効求人倍率が高い職種は離職率が高い職種でもある。

これらの産業に小売業や物流関係(運輸業)を加えた消費サービス関連部門は長時間就業者の多い部門である。過労死の多発とも深い関連がある。非正規雇用比率が高いことも正社員の過重労働に拍車をかけている。頻繁な労働移動とも密接に関係している。「長時間労働者の比率、非正規雇用比率、労働移動率(入職率、離職率)」の関わりについて詳細に検討する必要がある。過労死や精神障害の多発は言うまでもなく「労働力使い捨て社会」を象徴するものである。

職業紹介について言えば、消費サービス関連産業に関わる職種と対極にあるのが一般事務職である。図表2のとおり「一般事務」は有効求職者が特に多い職業であるが、求人数の方はそれを満たすのに十分ではない。このため有効求人倍率は0.4台にとどまっている。希望しても事務職につくことは難しい。今日の「人手不足」は全般的な労働力不足状態とは異なる。

(3)「人手不足」の原因その3 高齢社会と介護・福祉労働の需要増加

有効求人倍率が最も高く「人手不足」が深刻な職種は介護サービスである(図表2)。高齢者の増加に伴う介護労働者やケアマネジャーの需要は今後も増加することは明らかである。これらの職業に対する需要は経済成長の度合いに大きく左右されることはない。したがって安定した雇用になりうる可能性があるが、2000年に介護保険法を施行、介護保険制度を導入し、介護報酬の抑制・引き下げに象徴されるように、新自由主義的構造改革政策に依拠して対応したことで、その労働条件は、仕事の専門性に見合わない水準に切り下げられた。図表2のとおり、介護サービス職は人手不足が最も深刻化しているが、その主因は高齢者の増加という人口構成の問題というよりも、政策の誤りにある。

介護保険制度の実施にともなって介護労働者への需要は急増し、介護部門に参入する民間業者も増えた。介護という特性上、サービスの提供は年中無休、24時間体制を求められるため、深夜労働、交替制勤務が不可避で、工場労働のように無人ロボットを活用するわけにはいかず、基本的に人力によるサービスが大半である。

このような心身ともに負荷の大きい介護労働に対しては、他の職種以上に高い賃金を支払い、処遇を引き上げることが求められるが、実態は逆である。介護保険制度が発足して20年近くになるが、介護労働者の賃金水準は全産業平均に比べ数段階低い状態が抜本的に改善されないままである。その背景には介護サービスの専門性を正当に評価しない介護報酬の低水準がある。公的責任で介護体制を構築することを放棄し、介護報酬の抑制・引き下げに固執した結果、介護職もまた消費サービス職と同様に、持続不可能な働き方となっている。労働力使い捨て的性格がここにもあらわれている。

このため、高齢者人口の増加による介護需要の高まりとは逆に、介護職に従事することを希望する若者は介護保険制度の発足時と比べ、著しく減っている*1。介護福祉士を養成する専門学校の定員は充足されず、閉校に追い込まれる事例も生じている。結婚や子育てができないほどの低賃金水準のため、意欲を持って入職した若者が短期間で離職するケースがあとをたたず、慢性的人手不足状態にある。

低成長下の「人手不足」、有効求人倍率の上昇は、「アベノミクスの成果」というよりも、働き方・働かせ方と雇用の劣化を示すシグナルと捉えるべきである。

3 正社員の有効求人倍率も大幅に改善したというが…

(1)「正社員」の内実は?

正社員の有効求人倍率(季節調整値)が2017年7月より1倍を超えた。職業紹介統計で正社員の有効求人倍率の集計をするようになった2004年11月以来、初めてのことである。冒頭で触れた自民党の選挙向けHPはアベノミクスの成果と誇っているが、その実態については多角的に見ておかなければならない。

まず、「正社員」の内実がかなり変わってきていることに注意したい。正社員と言えば、日本型雇用のイメージ、つまり年齢とともに賃金が上昇し、夏冬のボーナスは当然あるし、定年時には退職金も支給されるという姿を描く人も少なくないであろう(ただし、以前から女性正社員は男性のような賃金上昇カーブは描いていないのだが)。最近のハローワークには、そうした常識とは異なる「正社員」求人が出されるようになっている。

たとえば、「月給20万円(固定残業代を含む)、定期昇給なし、ボーナスなし」という正社員求人もある。また、請負労働者として、事実上、別の会社に派遣されて働くケースでも、求人企業(請負会社)がハローワークに提出する求人申込書には「正社員」と記入している。このためハローワークやインターネットで公開されている求人票には「雇用形態は正社員、就業形態は請負」という事例が少なくない。

(2)増えている「名ばかり正社員」

正社員(正規雇用)の変容を象徴するのが「名ばかり正社員」の増加である。総務省統計局が5年ごとに実施している「就業構造基本調査」では2012年の調査より、雇用契約期間に定めがあるか否かを尋ねる項目が設けられた。これと、雇用形態(正規雇用か、非正規雇用か)をクロスしてみると、「正規雇用」と回答した人のなかにも、有期雇用であったり、自分の雇用契約が無期なのか、それとも有期雇用なのか、わからないと答えた人が含まれている。これらを「名ばかり正規雇用」(名ばかり正社員)と呼ぼう。

これまで正規雇用というのは、なによりも雇用契約期間に定めがないこと、つまり無期雇用と考えられてきたけれども、今ではこの常識が必ずしも通用しなくなった。2012年から17年までの5年間に「名ばかり正規雇用」は男女合計で60.6万人増えたが(図表3-1)、特に、注目されるのは男性の変化である。この5年間の正規雇用の増加数(49万人)の大半(43万人、87.8%)を「名ばかり正規雇用」が占めている(図表3-2)。ブラック企業に象徴されるように、増加した正規雇用の質に問題があることを示している。

 

女性については男性とやや異なる傾向にある。「実質的正規雇用」の伸び率は「実質的非正規労働」の伸び率を若干上回り、女性の実質的非正規率は微減した(図表3-3)。この5年間に限れば、男性とは対照的に女性の正規化がすすんでいるようだ。それはもっぱら、医療・福祉・介護分野で生じている。これは高齢社会を反映したもので、安倍政権の政策効果というものではない。

ただし、正規雇用とはいえ、男女間の賃金格差は依然として大きい。女性正規の半数弱が年間収入300万円未満である(男性は2割強)。うち16%はワーキングプアの目安とされている年収200万円に満たない。いわば「正社員ワーキングプア」である。

(3)正社員という名前を利用しつつ使いつぶす「ハードワーキングプア」

図表4が示すように、2012年から17年にかけて20代、30代男性の名ばかり正規の増加数が大きい。新規学卒者の就職状況が好調ななかで、なぜこのようなことが生じているのだろうか。企業の若手社員に対する姿勢が変わってきていることを示唆している。自社で技能を育成して、雇用の安定を図るのではなく、正社員という名前を利用しつつ使いつぶす雇用手法の反映ではないか。今野晴貴氏は、このような長時間労働+低賃金の働き方・働かせ方をワーキングプアより一段深刻なハードワーキングプアと名づけている(後藤道夫ほか福祉国家構想研究会編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし――「雇用崩壊」を乗り超える』大月書店、2018年、第2章)。

40代男性でも「名ばかり正規雇用」が際だって増えている(図表4)。「就業構造基本調査」2012年調査時、就職氷河期世代は30代だったが、17年調査では40代に移行している。氷河期世代は正規雇用であっても、必ずしも安定した職についていない人が少なくない。いま雇用流動化の波が40代男性正規を襲っている(早期退職化)。

4 非正規雇用の諸相

安倍首相は2018年の通常国会の施政方針演説のなかで、「雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉を、この国から一掃」すると大見得を切ったが、果たしてどのようになったか。最新の動向を見るために、「労働力調査(詳細集計)」をもとに2018年1月~3月期と同19年1月~3月期を比較してみよう(図表5)。非正規雇用者数および非正規比率ともに、この1年間で増加している。非正規化に歯止めがかかるきざしは見えない。所得格差も開いたままである。

図表3では2012年から17年にかけて女性の非正規比率および実質的非正規比率ともに微減したが、直近1年間に限ってみればまたもや女性の非正規化が進行している(56.8%→57.1%)。

今回の参院選向けの自民党HP(「アベノミクス6年の実績」)では非正規雇用の現状について触れていない。自公政権にとっては「不都合な真実」が多々あるが、以下では要点のみ示すことにしよう。

(1)中年非正規雇用の苦難

男性で不本意型非正規雇用、つまり正規雇用(正社員)を希望したにもかかわらずかなわなかった人々の比率が高い(図表6)。特に45~54歳層で著しい。世紀転換期の大リストラに遭遇し非正規雇用に移動した人たちや、氷河期世代がこの年代に該当する。さらに25~34歳の若年層でも不本意型非正規雇用の比率が高い。自分の意志に反して非正規の職についた人々に対して正規雇用への転換を図る政策が急がれる。「人手不足」が本当ならば、これを実現する条件は広がっているはずだ。

(2)家の生活費にバイト代入れる働く高校生の増加

いま若年人口減によって高校生も減少しているにもかかわらず、家計を支えるためにアルバイトをする生徒が増えている(図表7)。コンビニや飲食サービス業などを中心に需要側の要因もあるが、主要には働かざるを得ない生徒の増加を反映している。彼らの親は就職氷河期世代や、90年代末から今世紀初頭に大量リストラにあった世代に該当する。

千葉県の公立高校で2016年の秋から冬にかけてアルバイトをしている生徒の調査をした。アンケートに回答した2515人のうち4割はアルバイトをしている。平日のバイト時間が4時間以上という生徒が46%。自分の小遣いを得るために働いているとは限らない。調査に回答した2515人のうち、51%は家の生活費にバイト代を入れているという(NHKスペシャル取材班『高校生ワーキングプア』2018年)。「働かなければ学べない」という現状は教育を受ける権利の剥奪にほかならない。

貧困世帯の生徒のなかには大学や専門学校への進学をあきらめたり、高校中退する事例も少なくない。新卒労働市場の活況ぶりがさかんに報じられているが、そうした売り手市場に初めから参入できない若者が存在していることにも目を向けるべきである。卒業後に初めて就く職が正規雇用か否かが、その後の職業生活を左右し、生涯所得や結婚の成否にも影響している。非正規化がもたらす貧困の世代間連鎖は日本社会の将来にかかわる大問題である。

(3)年金制度の貧弱さゆえの「高齢ワーキングプア」増加

高校生の祖父母の年代の高齢者のなかでも、働かなくては生活が立ちゆかない人々が増えている。収入の確保を主たる目的に働く高齢者は、若年期、壮年期をとおして非正規で働いてきたため、年金保険料を払えず無年金となった人や、現役時代の賃金水準に連動して年金受給額も少ない人、夫または妻を介護施設に入れたため、年金ではその費用をまかなえない人などさまざまである。

とりわけ注目すべきは正規雇用並みに週40時間以上就労する高齢者が増加し、しかも年収200万円未満のワーキングプア層が増えていることである(図表8)。加えて、15~64歳に比べ、65歳以上の方がワーキングプア比率が高いことに注目したい。女性の高齢非正規では6割が200万円に満たない。ここから浮かび上がってくるのは、年金制度の貧弱さゆえに、しかも非正規賃金が低水準のために高齢にもかかわらずフルタイムで働かざるをえない姿である。

人生の終着点を控え、仕事よりも休息を望む高齢者にはその権利を保障しなければならない。無理をおして働かなければならない状態は休息する権利の剥奪を意味する。

安倍政権が「アベノミクス6年の実績」を謳うのであれば、ここで指摘したような「不都合な真実」から目をそらすことなく、正面から向き合い、その対策を示すべきである。こうした真摯な対応を安倍政権に期待することは「ないものねだり」というべきだろうか。

[付記]小論の2は拙稿「『労働力不足』と外国人労働者導入問題」(『労働総研クォータリー』2019年春号)の一部を引用しました。その他の箇所でも、これまでに執筆した拙稿の一部や図表を再利用したことをお断りします。

*1 井口克郎氏が2007年1月~2月に介護福祉士養成施設(専門学校、短大、4年生大学)の在学生340名を対象に実施した調査によれば、273名(80.3%)が卒業後、介護職として就職することを希望していた。このうち「一生の仕事としてできるだけ長く」と答えた学生が45.1%を占め、とくに男性にその割合が高かった(井口「介護現場の『人手不足』と若者の介護への就職意識」金沢大学大学院人間社会環境研究科『人間社会環境研究』第15号、2008年、75頁)。

伍賀一道(金沢大学名誉教授)

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