雇用・労働

〈データで読み解く安倍政権の欺瞞〉「若者の就職や正社員求人など雇用改善」は安倍政権の成果でなく若年人口減少が主因―若者の過労死相次ぐ中「働き方改革」撤回と過労死ゼロ・最賃1500円実現の政治が必要

就業者数を上回る非正規労働者の増加

自民党の選挙公約によれば、2012年から16年までの4年間で就業者数は185万人増えたという。このデータの出典は示されていないが、総務省の「労働力調査(詳細集計)」によれば(▼図1)、就業者はこの間に169万人増えている(6262万人→6431万人)。このうち「役員を除く雇用者」(=労働者)は就業者を上回って、218万人増えた(5154万人→5372万人)。就業者のなかの自営業者(個人経営の工場主、商店主、農家など)やその家族従業者の減少が大きい(計68万人の減)。労働者の増加(218万人)の9割以上は非正規労働者(203万人)が占めている。コンビニの経営者がゆきづまり、家族とともに派遣社員やパートになるという構図である。

この4年間の正社員の増加はわずか15万人にとどまる。男性に限れば22万人減った。団塊の世代が定年後、非正規雇用に移行した影響が大きい。他方、女性の正社員は医療・介護分野を中心に37万人増えた。

女性正社員の多くは男性に比べ賃金が低い。年間収入で見ると女性正社員の2割は200万円未満、半数近くが300万円に達しない(▼図2)。

よく知られているように、正社員と非正規の賃金格差も大きい。非正規労働者の4分の3は年収200万円未満である(▼図3)。このため女性正社員や非正規雇用の増加は低所得層の増加を意味する。これが安倍政権下の就業者増加の実態である。けっして誇れる内容ではない。

有効求人倍率は上昇したが…

「人手不足」が叫ばれるようになって数年になる。今年8月の有効求人倍率はオイルショック直前の水準(1973年5月、1.73倍)につぐ1.52倍になった。この有効求人倍率はパートや臨時雇いなどの非正規雇用を含んだ数値である。正社員に限った有効求人倍率も上昇し、7月には1倍を超えたが(1.01倍)、有効求人倍率の上昇はおもにパートなど非正規雇用の求人増が牽引している。企業はあいかわらず正社員よりもパートなど非正規雇用の方を多く求めている。

▼図4は、本年8月の常用労働者(パートを含む)の有効求人件数が10万人を超える職業について、有効求人倍率の高い順に示している。上位に位置する接客・給仕、飲食物調理、介護サービス、自動車運転、商品販売などは、労働時間は長く、不規則・深夜勤務が多いにもかかわらず賃金は低いこともあって、離職率が高い。企業は就職者が得られても、早期の離職をみこしてハローワークに求人を出し続けるため、有効求人倍率は高止まり状態が続いている。「人手不足」をもたらしている要因には働かせ方の問題が大きい。

これに対し、一般事務職の求職者は43万人に上るが、求人件数ははるかに少ないため、有効求人倍率は0.34と、1倍を大きく下回っている。これ以外の事務関連の仕事も1倍を下回っている。今日の「人手不足」は全般的な労働力不足ではなく、消費サービスや流通、介護・福祉、建設関連などに集中して生じている。

正社員有効求人倍率1倍超えの実際

上記のとおり正社員の有効求人倍率が7月より1倍を超えた。職業紹介統計で正社員の有効求人倍率の集計をするようになった2004年11月以来、初めてのことである。自民党の選挙公約はアベノミクスの成果と誇っているが、その実態については多角的に見ておかなければならない。

まず、「正社員」の内実がかなり変わってきていることに注意したい。私たちの多くは、正社員と言えば、日本型雇用のイメージ、つまり年齢とともに賃金が上昇し、夏冬のボーナスは当然あるし、定年時には退職金も支給されるという姿を描くであろう。実態はかなり異なっている。最近のハローワークには、そうした既成概念とは異なる「正社員」求人が出されるようになっている。

たとえば、「月給20万円(固定残業代を含む)、定期昇給なし、ボーナスなし」という正社員求人もある。また、請負労働者として、事実上、別の会社に派遣されて働くケースでも、求人企業(請負会社)がハローワークに提出する求人申込書には「正社員」と記入している。このためハローワークやインターネットで公開されている求人票には「雇用形態は正社員、就業形態は請負」という事例が少なくない。

2011年度(総計)と16年度(同)の正社員の有効求人数を比較すると、915万件から1312万件に増えたのに対し、就職件数は逆に91万件から79万件に減少している(厚生労働省「職業安定業務統計」)。有効求人数に対する就職件数の比率はこの5年間で大幅に低下している(▼図5)。職種間のミスマッチもその要因の一つであるが、それだけではない。求人票の求人条件ではまともな暮らしができないレベルであれば、いくら「正社員」の募集であっても求職者が受け入れることはできないだろう。

若年人口減少がもたらした若者の就職状況の改善

若者の就職内定率が過去最高になったという。20代の若者が安倍政権を支持する最も大きな理由である。「アベノミクスの成果だ、日本経済は確実に回復している」と自民党公約は自慢しているが、政府はデフレ経済からの脱却を正式に宣言できないでいる。GDP、物価上昇率ともに安倍政権発足時の目標にはるかに及ばない。

近年の新規学卒者(高卒、大卒)の就職状況が好調なのは安倍政権の成果ではない。最も大きな要因は若年人口減だ。2005年から15年までの10年間で、15歳~24歳人口は200万人、25~34歳層は実に446万人減った。他方、65歳以上の高齢者は824万人も増えている(▼図6)。労働市場から引退あるいは非正規労働者に転じた高齢者の代わりとなるだけの若者の人数がはるかに少ない。若者の採用をめざす企業間競争が激しくなるのは当たり前である。

若者の売り手市場とはいうものの、いったん会社が採用した後は若者に対する厳しい働かせ方を変えてはいない。若手正社員(21~33歳)で離職したケースのなかで、辞める直前の週労働時間が60時間を超えている比率は23.8%に上る。男性では3割である(労働政策研究・研修機構『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成』調査シリーズ164号、2017年)。週60時間労働とは月間の残業時間にしておよそ80時間、これは過労死認定水準に相当する。もう少しまともな働き方・働かせ方であれば、離職しないですんだのではないか。

電通の髙橋まつりさんや新国立競技場建設労働者の過労自殺事件に象徴されるように、安倍政権下で若い労働者の過労死があいついで発生している。働き方が改善されたとは到底言えない。

「副業・兼業」推進論の本音はどこに?

自民党公約では「テレワークや副業・兼業などの柔軟な働き方を進める」とうたっている。安倍政権の「働き方改革実行計画」(2017年3月)をうけたものだ。これまで会社は労働者に対して職務専念義務を課してきた。会社に隠れて週末にアルバイトをしていることがばれると懲戒処分の対象となった。ではなぜ、いま副業・兼業の推進なのか。これを解くカギは、経済産業省の「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」(2017年3月)にある。

「これまで、企業においては、自社の事業にかかわる業務については、自社で雇用している人材によって業務を遂行するのが一般的であった。……急激な産業構造の転換とビジネスモデルの変化等により、そういった『自前主義』には限界が訪れつつあり、外部人材の積極的活用が企業にとっても重要になりつつある。」

いま雇用している労働者を個人事業主(非雇用型テレワーク)などの「外部人材」に置き換えることの奨励である。副業・兼業推進論の先にあるのはこの個人事業主化である。副業・兼業を拡大すれば、労働時間管理や社会保険料徴収が煩雑になる。個人事業主に転換すればそうした煩雑さを一挙に解決できる。

個人事業主の場合(偽装されたケースは別として)、労働基準法・最低賃金法・労災保険法・雇用保険法などの労働保護法制が適用されない。賃金は請負代金に、社会保険は国民健康保険や国民年金に変わる。通勤手当やボーナス、退職金などはない。労働災害・通勤災害に対する補償も受けられない。

経産省などが非雇用型テレワークを含む「外部人材」の働き方を押し出している背景には、AI(人工知能)の導入によって、これまでの経済・社会構造に大きな変革をもたらす時代(「第四次産業革命」)の到来がおよそ20年後に迫っているという認識がある。いまは「人手不足」が声高に叫ばれているが、202X年には人余り社会に転ずるとの予測もある(「日本経済新聞」2017年8月26日付)。AIは、製造工程はもとよりサービス・流通分野や事務部門の定型的業務だけでなく、知的労働の一部さえも人間の手から奪うとの予測もある。そうした時代を間近に控えて、企業が雇用責任を負わなければならない働かせ方を減らしておきたいという意図がうかがえる。

昨年8月に公表された厚生労働省の懇談会報告書「働き方の未来2035」は先の経産省研究会よりも大胆な展望を示している。AIの進展を背景に企業組織は変容し、「個人事業主と従業員との境がますます曖昧になっていく。組織に所属することの意味が今とは変わり、複数の組織に多層的に所属することも出てくる」と予測。従業員は一つの会社に所属することはなくなり、「兼業や副業、あるいは複業は当たり前のこととなる」ともいう。この報告書は末尾の参考資料(「未来通信」)で夢のような働き方の事例を描いているが、絵空事としか受け取れない。

現在の「人手不足」はやがて「人余り」に転換することを考慮するならば、いま求められているのは、抜本的な労働時間短縮とともに、最低生活保障のあり方を具体化することである。「8時間働けば普通に暮らせる社会の実現」をスローガンにとどめるのではなく、法制度として具体化することが急がれる。「高度プロフェッショナル制度」(ホワイトカラー・エグゼンプション)や裁量労働制を営業職にまで拡大する自民党の「働き方改革」を撤回させ、「過労死ゼロ」、「最賃1500円」を実現する政治が必要である。

伍賀一道(金沢大学名誉教授)

▼関連文献

シリーズ福祉国家構想3

後藤道夫 編
布川日佐史 編
福祉国家構想研究会 編
(伍賀一道ほか執筆)

『失業・半失業者が暮らせる制度の構築
 ――雇用崩壊からの脱却』(大月書店)

 

 

 

 

 

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